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あいち田舎暮らし応援団

あいちの山里暮らし人だより

~Michi~

Vol.29

どんな木材も、余す事なく活用される未来へ!

地域材で回る、森のカタチを目指して。株式会社杉生で描く山路さんの未来とは。

落ち着いた淡々とした話し方の中に、1つの信念が根を張りどっしりと構えている、それが山路さんの印象です。

DIYをきっかけに、地域材の活用から森のサイクルを考え、業界の先陣を切るまでの変容を伺いました。

 

趣味のDIYが転機に。

 

1985年埼玉で生まれ、名古屋で育つ。

大学は建築学部へ進む。

「家を建てる際の、木組みが見えてる状態の風景に興味を持ったような気がします」

と思いを馳せる。

しかし、リーマンショックで就職氷河期の時代。

工業系廃棄物をリサイクルする環境事業の会社になんとか内定をもらい、ハードながら、8年勤めた。

「環境に貢献する仕事ではあったんですけど、自分の生活に直接関わりのない感じで意義を見いだせず、悶々としていましたね」

その頃の趣味はDIY。

マンション住まいで大々的には行えなかったものの、木に関わる仕事を考えていた。

そんな時、姉の話から岐阜県にある森林文化アカデミーを知った。

「30歳過ぎて畑違いの業界へいきなり飛び込むのは怖いなと。イチからしっかり勉強したい…!」

学生として学ぶ決心をし、退職と転居を決め、2017年にアカデミーに入学した。

 

 

アカデミーで気づいた、日本の木材の課題

 

森林文化アカデミーは二年制の学校で、

高校卒業の方向けの、林業施業者を育成するコースと、山路さんが選んだ大卒・社会人経験者向けの、マネジメントや新しい仕事を作っていくことを目的とされているクリエーター育成コース2つがある。

その中でも木工科を専攻し家具作りに軸足を置きながら、林業・木材・木造建築・販売についてなど、科をまたいで木に関わること全般を学んだ

 

アカデミーでの学びで印象的だったのは、日本の抱える森林問題の現状。

「ホームセンターに売ってる木って基本SPF材と言って外国産材なんですよね。日本にはこんなに森があるのに、流通されているのは外国産材ばかりってことに疑問を抱くようになりました」

外国産材の流通には商社が入っており、すでに大きな流通ルートがあることを知った。

地域の木を使っていくことが、これからの日本にとっては必要と考え、地域材を活かした仕事がしたいと感じるようになってきていた。

 

地域材を生かす場所を求めて。

 

名古屋市出身のため、就職先は県内で探した。

家具作りについて一通り学んだが、実際に家具だけで食っていくのは厳しそうだ。

 

そんな時、願ってもない情報がもたらされる。

「企業説明会に参加した友人から、愛知県内に杉生っていう会社があったよって聞いたんです。一度お話させてもらえませんか?とご連絡しました」

それが、杉生との出会いだった。

来てみると、会社の周囲は自然が近くて好印象。

建築材をメインに家具作りもしており、学びも活かせそうだと思った。

「杉生は基本的に、地域材の活用を提案している会社でした。

日本の山に目を向けるメディアもここ数年増えてますが、そのずっと前から地域材の活用を発信していたんです」

自分の想いとも合致した面白い会社に出会えた喜びで、入社を希望した。

アカデミーでは現在の妻との出会いもあり、卒業と同時に結婚もした。

住まいは、妻の仕事も考慮し二人で悩んだ末、豊橋のアパートに決めた。

 

思いがけず経験が生きる、異業種からの転職

 

杉生で働き5年目の山路さん。

現在の業務は主に営業。

建築業者、工務店、大工など、各担当業者と打ち合わせ、会社の窓口を担当するが…

「まあ、何でもやってます(笑)」

手が足りないことがあれば、アカデミーで学んだ木材加工や家具製作も、前職で扱っていたフォークリフトも使うという。

入社時は前任者がおらず、3年目までは手探りで苦労したそう。

「意外とやってみたらなんとかなりましたけどね」

と当時を振り返る。

 

直近はホームページの改編も担当。

「一般ユーザー向けのBtoCの仕事をする上で、発信ツールは絶対外せないと思っていて。いわゆるブランディングにも取り組んでいます」

現在客層は50〜60代が多いが、若い世代にももっと知ってもらいたい思いを込め、おしゃれで可愛く仕上げた。

社員20人弱。昨年2名の若い人材も入り、さらにパワーアップ。

社内イベントとして数ヶ月に一度不定期な焚火会があり、チーム作りも進めている。

若い人材を丁寧に育てる環境作りにも注力しつつ、さらなる展開への足元固めも順調だ。

 

新たな取り組みと変わらない想い

 

どんな木材も余すことなく活用し、山が循環する仕組みを作る。

想いを体現するための取り組みをいくつかご紹介したい。

 

まずは枝虫材(えだむしざい)の活用。

スギノアカネトラカミキリ虫による食害を受け、強度が劣るイメージを持たれて流通されない木材だが、強度はほぼ変わらないと実験で証明済み。

美観的な欠点も、見えない場所への用途なら使えるし、自然のままを愛する風潮もあり、使い方は無限大だ。

 

次に大径木の活用。

今の山林には大きくなりすぎて使い道に困る立木も多い。そんな大径木も柾目を活用したテーブルとして製品化し、あいち木づかい表彰で優秀賞を獲得した。

全国的にも珍しいアイディアで付加価値をつけ、「ここにしかない」商品作りに精を出す。

(写真は株式会社 杉生 HPより引用)

 

さらに、バイオ乾燥という乾燥法も導入。

一見全部木材でできた乾燥庫には、壁の中に水分を吸い取る塩化カルシウムが充填されており、庫内は電熱ヒーターで40度ぐらいに温められている。

化学的な性質を利用して、木材中の水素イオンを壁が吸い取り、そのまま外に放出する仕掛けだ。

大手の材木屋では、木材の乾燥は高温乾燥が主流で、100度以上で1週間ほどの時間で行う。

しかしそれでは油分が抜け、香りも無くカサカサになり、木材の良さは失われやすい。

杉生では天日で行う天然乾燥をメインに、仕上げ工程として2〜3週間バイオ乾燥を使用する。

木の良さを残したまま、乾燥期間を1/3ほど速くし、木材の含水量をコントロールすることが出来るのだ。

四季のある日本でも、使用中に反ったり曲がったりするリスクが減るので、納品後の実生活で商品が安定しやすいところが魅力。

愛知県でほとんど使われていない、珍しい技術だ。

「実際にお客さんに、いいねと言ってもらえるのがやっぱり嬉しいですね」

とやりがいを語り笑顔。

杉生の根幹、「山の木をどうやってうまく使うか?」にすべて繋がっている。

 

個人のお客様にも伝えたい、地域材の活用

 

山路さんが今後も大切にしたいのは、地域材を活用し、木材の可能性を広く社会に提案すること。

「彼みたいに色んなことを理解しながらできる人は非常に貴重」と社長もお墨付きだ。

発信の場として、名古屋・東京などが主催しているイベント参加はもちろん、DIYも1つの市場と捉え、直接お客さんに向けた商売も考えている。

人口減少につれ、住宅新築の競争率が激化することを見据えているためだ。

新城のDIY YouTuber、神谷さんが杉生の材を使用することで、木材の買い付けに来るお客様も出てきて、さらにニーズも実感した。

ネットを使えば全国規模で可能性はさらに広がるはずだ。

「これからは直接杉生の名前を知ったお客様も増やしたい」と意気込む。

「地域材を使う方が、理に適ってませんか?

外国から材を買ってくるよりも地域にこんなにあるんだから。本当に単純な話です。木に関わる産業が元気になれば、そこに雇用が生まれ地域活性化にもつながる」

見れば1本の板材。だが、奥が深い地域材活用への取り組み。

先陣切って走りぬく想いのバトンは、脈々と次世代へも受け継がれている。

 

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インタビュー・執筆:白井美里  撮影:中島かおる

Information

株式会社 杉生

〒441-1301  愛知県新城市矢部土取10−2

TEL:0536-24-1530

URL:https://sugishou.com/

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