お問合わせ
あいち田舎暮らし応援団

あいちの山里暮らし人だより

~Michi~

Vol.47

ゆったり、のんびり、そのままで

技術者として走り続けた半生と、森がくれた静かな時間

 

「もし本当に危ないものなら、自分が止めてやろうくらいの気持ちでした」

 

加藤義之さんは、かつて大手エネルギーインフラ企業で技術者として働いていた。

機械工学を学び、安定を願う両親の思いを受けて大企業へ進んだ。

本当は別の夢もあったが、「大きな会社で堅実に働け」という親の言葉に背中を押されたのである。

現場では設備のメンテナンスを担当した。配管やポンプ、各種機械設備の点検と管理。社会を支える重要な現場であった。

 

「仕事そのものは誇りを持ってやっていました。ただ、ずっと違和感はありました」

 

外向きには整えられた説明と、現場にかかる負担。そのねじれの中で、責任感の強い加藤さんは常に最前線に立った。

 

「やれと言われればやる。でも、できないことはできないと言う。会社にとって都合のいい人間だったかもしれません」

 

大規模災害以降、設備の安全対策や改修工事が本格化し、現場はさらに逼迫した。

加藤さんは約10年にわたり指揮を執る立場にあった。

 

「気がついたら、体が動かなくなっていた。朝起きられないし、夜も眠れない。食べる気も起こらない」

 

40代後半、心身は限界を迎える。うつ病と診断され、一線を退いた。

 

 

 

「命削ってまでやる仕事じゃない」

妻の言葉と森との出会い

 

転機は、妻の一言である。

 

「命を削ってまでやる仕事じゃないでしょ」

 

さらに、妻自身にも重い病が見つかる。先の見えない状況の中、二人は決断する。

「無理せず、やりたいことをやろう」

 

若い頃から語り合っていた「田舎でのんびり暮らす」という夢。

その実現に向けて動き出した。情報を集める日々の中で、偶然この森に出会う。

「この森が売りに出された数日後に、僕が問い合わせたらしいんです。不思議なご縁でした」

 

初めて訪れた森は、背丈ほどの笹に覆われていた。しかし二人は同じ感覚を抱いた。

 

「大変そうだけど、ここ、いいわね」

 

週末ごとに通い、笹を刈り、斜面を削り、道を拓いた。

重機が入れない場所は手作業で掘削した。

 

「一生懸命、手で掘りました」

 

完成したのは、ハンモックに揺られながら過ごせる六つのスペースを持つ、静かな森のキャンプ場である。

 

名前は「ゆののん」。

「ゆったり、のんびり、のほほん。妻が書いてきたんです。“いいじゃん、いただき”って」

 

森のあちこちにカエルのモチーフがあるのも、二人で集めた思い出である。

 

喪失のあとに残ったもの

地域とのつながり

 

開業から一年後、妻の病は再発し、やがて旅立った。

 

「正直、店を続ける気は起きませんでした」

 

人に会うこともつらく、営業を休んだ時期もある。

それでも森を手放さなかったのは、地域の人々の存在があったからだ。

「ここで去っていくのは、あまりにも申し訳ない」

 

現在は週末のみ営業し、平日は地域のコンビニを手伝う。

小学校跡地の再生事業も手伝っている。

 

「せめて、地元に貢献できることがあれば」

 

長男もその再生事業に関わることになった。三人の子どもたちはそれぞれの道を歩み始めている。

 

「父としては、もうやることはないですよ」

 

そう言いながらも、どこか誇らしげである。

 

 

森で過ごす静かな時間

 

この場所を大きな観光地にするつもりはない。 静かに過ごしたい人が訪れる、そんな場所であればいいと加藤さんは語る。

 

「心を壊す前に、森で少し休んでもらえたらうれしいですね」

 

木々の間に揺れるハンモック。 ゆったりと流れる時間の中で、森は今日も訪れる人を静かに迎えている。

 

これからのこと

 

「今、何が本業なのかよく分からない。でも、必要とされるなら力になりたい」

 

肩書きを離れた今、加藤さんは言う。

 

「自分のことだけ考えて生きてもいい時期かなって」

 

気分が沈む日もある。それでも森に立つと、少しだけ呼吸が整う。

 

「ゆったり、のんびり、のほほんと。なんとでもなりますから」

 

森の静けさの中で、加藤義之さんは問い続けている。 生きるとは何か。 そして、自分はどう在りたいのかを。

 

 

 

お問い合わせ先:yunonon@tees.jp

*****************************

 

インタビュー・執筆:佐治 真紀  撮影:中島かおる

 

Information

ヒノキの森のくつろぎスペースゆののん

URL:https://yunonon.hp.peraichi.com/

ページトップ

menu