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あいち田舎暮らし応援団

あいちの山里暮らし人だより

~Michi~

Vol.39

「土地と深く繋がって生きている」

~清らかな香りと森の体験を金蔵連(ごんぞれ)から~

 

 

「なんて清らかな土地だろう」

 

車から降り立った時に感じた感覚が忘れられない。

あれから13年。豊田市御内(みうち)町に暮らすGONZORE TRAIL・Sunlit Earth主宰でデザイナーの藤澤あやさんにお話を伺った。

御内町は豊田市の中でも一番山奥の地域に当たる。紅葉で有名な香嵐渓の奥にあり、神越渓谷マス釣り場のそのまた奥に藤澤さんの森はある。

 

「この森を整備し始めて、5年になります。」

 

 

   岐阜県で育った藤澤さん。 幼い頃は裸足で駆け回って遊んだり、日本画家だった大好きな大伯母の元で絵を描いたりすることが好きだった。

 

「絵を描いたり、何か作ったりするのが好きな子どもだったと思います。」

 

大きくなると、「あや」という名前のアルファベットAYAを使ってどれだけロゴが作れるか、そんなことに夢中になっている子どもだった。

祖母の住む東京で高校時代を過ごした。

 

「両親は東京の人でしたので、岐阜に住みながらも家の中は標準語でしたし、岐阜も東京も両方故郷みたいな感じですね。」

 

大学を卒業後、働く中で、自然とデザインの仕事をするようになっていた。

「家具メーカーで働いていました。直接家具を作るわけではなく、展示会の企画をしたり販促物を作ったり。そこで夫と出会いました。」

 

出会った人は、結婚したら自分の故郷に帰る、と心に決めていたという。自身の生まれ育った場所も自然豊かな場所だったので、山には住むのは全然違和感がなかった。 生まれたばかりの子どもを抱いて、この地にやってきたのは景色が鮮やかになる春。

 

「なんか自分に光が降り注いでくるみたいな感じでした。360度、光に包まれてるって言うか。

なんかよくわかんないけど喜ばれているらしい、そんな気がしました。

春先の芽吹いていく景色の中に朝靄がかかっていて、息子を抱きながら夫と散歩したんですけど、あまりに景色が綺麗で感傷も合間って涙が溢れました。」

 

 

「今は、土地と深く繋がって生きているという感覚。岐阜と東京であちこち移り住んだけど、そんな感じは今まで持ったことなかったですね。」

 

初めての土地で、慣れない子育て。夫の両親と同居だったので、ずいぶん助けてもらったという。

それでも、3人の子育てをする中で、孤独感を抱えた時もあった。長い葛藤から抜けた時、心に湧いてきた気持ちは「自分は今ここにいたい」だった。

 

「ここにうちの森があることは聞いてました。でも当時は、足を踏み入れることもできないぐらい藪に覆われていて、今とは全く景色が異なっていました。」

 

この地域で唯一の子どもの居る世帯として、地域を存続させていくために、何かできないかと考えていた。

最初は、誰かが言い出してくれるのを待っていた。

 

 「もう自分たちでやろうと思って、まず森を整備するところから始めたんです。」

 

大きな木を伐り倒す作業などは、森林組合に勤める夫が担当してくれた。

 

「週末は家族で作業して、平日は1人で森に作業に入って、その時間は割と瞑想的な時間でしたね。見渡す限り森だから先を見ると果てしない。とにかく、ここだけを見てっていう感じで集中して作業してました。」

 

約1年で全面遊べるようになった。

 

子育てしながらも孤独を感じていた時、何か自分を支えてくれるものはないか、と探してたどり着いたのが、香りだった。

 

「嗅覚が瞬時に脳の中枢に届くのを、自分の身体を通して実感したんです。もし、この清らかな土地に共に生きる植物たちの香りを抽出することができたら、一番心身に響くのではないかと思い、やってみようと思いました。」

抽出した5種類の樹木の精油や芳香蒸留水は成分分析もした。

 

「同じ樹種でも生育する土地によって精油成分の割合も違い、その土地の特色が出るんです。」

 

実際に森に入り整備しながら、この土地の樹木を蒸留をすることで、山や樹木の本質やより深い魅力に触れることになった。

この森の奥にある寧比曽山麓の天然水を使用し、全て手作業で精油を抽出し、商品化している。

 

「この土地の山の豊かさや清らかさを、求める方へ届けられたらとの思いです。 森を作りながら、この土地での体感を分かち合うこと。そしてこの土地で感じていることを形にし、表現すること。それを続けている中で、香りを受け取られた方が、今年、ご一家で御内に移住されることが決まりました。山と共に想いを循環しながら、お山が導いてくれているように感じています。」

 

藤澤さんには、もう一つ大切にしている活動がある。

会場は、1987年に廃校になった旧御内小学校を活用した「そらのうたMIUCHI」

平屋建ての校舎に入るとガラスに文字が書いてある。

 

「御内で育った6才の子ども。

大地に寝転んで空を見上げるのが大好き

ある日 お空から歌が聞こえてくることを 打ち明けてくれた。

お空から降ってくる、とても美しい音楽。」(略)

 

これは実際に藤澤さんのお子さんが伝えてくれたことなのだそう。 

「子どもたちも、山が大好きでこの地域も人もとても大切に思っています。山や森や地域に育ててもらい、感性が育っていることを嬉しく感じます。」

 

旧小学校の活用について、市役所の方たちと、地域の方たちを交えてずっと話し合いを続けてきた。

皆の想いが実って、オープンしたのは2024年4月21日。

オープニングイベントでは、長老の方たちに山の話を語っていただき、藤澤さん一家が主要メンバーとなっている金蔵連(ゴンゾレ)楽団が音楽を奏で、蒸留体験会を行った。楽団の名になっているゴンゾレは、集落の名前だ。

藤澤さんらは、GONZORE TRAILと名付けて、森を体感してもらうイベントも企画している。

 

「デザインも一緒なのですが、この土地から感じているものを、どう表現し伝えられるか、日々挑戦です。

地域のみんなと小学校の活用を始めたときに、お互いにいろんな意見を出し合ったら、こんなに広がるんだということを知りました。今は何よりそれが楽しいですね。」

 

近所のお年寄りたちは、ものすごく働き者でお元気だという。 子どもたちが乗るスクールバスを見送ってくれる方、バス停までの道で手を振ってくれる方。

 

「会うといつも子どもたちと遊んだり話しかけてくれたり。いつも地域の皆さんが大切に見守ってくれていて、支えられています。」

 

山と共に生きてきた御内。 大事な地域と大事な場所を愛している、まっすぐな目でそう語ってくださった。 藤澤さんの撮影をする時、それまで時雨れていた空から、光が差してきた。

  GONZORE TRAIL: https://www.instagram.com/gonzoretrail/

Sunlit Earth:https://www.instagram.com/sunlit_earth.aroma/ 

そらのうたMIUCHI: https://www.instagram.com/soranouta.miuchi  

 

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インタビュー・執筆:佐治 真紀  撮影:中島かおる

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