サウナで、カラダもココロもととのう!
~アウトドアサウナで地域を熱く・温かく~
市の面積の8割が森林という新城市。
山といえば木に覆われているという一般的な概念とは裏腹に、岩盤を露出させ特異な表情を見せるのが鳳来寺山だ。
その麓でテントサウナの事業と宿泊施設である古民家の管理運営事業をスタートした山本颯太さんに話を伺った。
サウナとの出会い
若い方を中心に、世代を超えて愛されているサウナ。
最近ではサウナ愛好家を称して「サウナ―」と呼ぶなど、ブームになっている。
その中でも最近話題なのが、アウトドアブームと相まって人気に火が付いた、アウトドアサウナだ。
山本さんは、大学卒業後インフラを支える会社に勤めた。
最初は一般家庭向けの営業部署に配属され、成績を上げた。
その次は、学生向けに自社をアピールする採用の部署に異動になった。
営業で外回りする仕事から、屋内での勤務へ変わったことに加え、かなりのハードワークで無理が続いた。
そんな山本さんを気遣い、先輩がサウナに誘ってくれた。
「その時の気持ちよさといったら」。
すっかりサウナの魅力に憑りつかれた。
川の近くでサウナに入れる場所がある、という噂を聞きつけて、そこで初めてテントサウナと出会った。
「アウトドアでサウナに入れるとは、なんて装置だ、と驚きました。
サウナに入った後、川に飛び込むんですよ。川にザブンと入るなんていつぶりだろう?」
子どもの時以来の経験をして、原体験が蘇ってきたそうだ。
岡崎の街中で生まれ育った山本さん。幼い頃は、両親にキャンプに連れていってもらったり、川でマス釣りをしたり、外遊びが大好きだった。
テントサウナならコンパクトだし金額的にも自分で購入できるかも、と思い立ち、テントサウナ一式を買い揃えた。
「実家の庭で、近隣に注意を払いながら試してみました。
自分で熾した火で、自分でベストな温度を見つけて。
自分が作りだしたサウナで相手が整ってくれるって、面白いぞ!とワクワクしました」。
働き始めて5年経っていた。
平日の仕事は充実しているし、週末の趣味か副業としてサウナが出来ればいいな、と考えていた。
ちょっと他所のサウナも見学してみよう、と向かった奈良県にあるサウナ小屋の付いた古民家宿で、自分の将来が目に浮かんだそうだ。
「山がワーッとそびえるようなすごい設計で、薪のストーブのサウナに入る施設でした。これがやりたい、って思ってしまったんです」
気が付いたら新城に足が向いていた
愛知県に帰った後もその時の記憶が頭から離れず、たまたま平日に休みを取っていたので、なぜかその足で新城市役所に向かっていたそうだ。
「岡崎の生まれで、当時は豊橋に住んでいたんですけど、なぜか新城市役所に向かってました」。
歴史好きの一面を持つ山本さんは、長篠の戦い古戦場に行ったことがあり、新城に対して良い印象を抱いていたそうだ。
「創業を支援する課の門を叩きました。そこから運命が動き出した気がします」。
ただ市役所の担当者も、突然飛び込んできた山本さんに対して、驚きを隠せなかった。
「色々サポートすることはできるが、決定するのはあくまで山本さんです。もう少しじっくり考えてみてはいかがですか?」
まだテントサウナに出会って、数か月しか経っていない。
その上、お付き合いしている方もいて、自分だけの都合で人生のカードを切ることは避けたかった。
「彼女からは、なぜ山にばかり行っているの?と言われました。
不安にさせてしまったことは申し訳ない、と思い、改めてじっくり説明をしました」。
自分にとって何が重要なのか、と自問自答する中で出た答えは、「この人と一緒に生きていきたい」
次の想いが、「自分の心地よい働き方をしたい」だった。
「もしかしたら、苦労させるかもしれないけど、それでも良ければ一緒に生きていきたい」。
相手の答えは、頼もしい一言だった。「私が支えるよ」
二人で将来を考えた
仕事のこと、暮らしのこと、様々なことを二人で考えた。
有難かったのは、市役所職員がものすごく親身になって相談に乗ってくれたこと。
市役所職員も交えて話し合う中で、いきなり二人で起業するのではなく、山本さんはテントサウナを、奥様は
新城で転職するプランが持ち上がった。
「僕は人事採用のキャリアがあったので、妻の転職を精一杯サポートしました」。
奥様の転職はスムーズに進み、先に山本さんが、その後奥様が移住してきた。
「一つ大変だったことは、思っていたより冬の寒さが厳しかったことです。
一度体調を崩しました。妻が、豊橋と新城を行き来してサポートしてくれました」。
市役所職員が住むところを紹介してくれたり、地元のお祭りに誘ってくれたりした。
地域の方にすんなり受け入れてもらえるよう、細やかな配慮がありがたかった。
「豊橋ではアパートに住んでいて、隣の人とは簡単な挨拶をするぐらいでしたが、こちらでは、地域活動にもしっかり参加し、良い関係が築けている気がします」。
移住して、本腰を入れてテントサウナと向き合う日々を過ごしている。
夢が現実に
「新城に来てからは、キャンプ場の一角や古民家の庭を使わせてもらってテントサウナを提供したりしています。
川の清流や井戸水といった自然そのままの水を使ったり、森や古民家の山の景色を使ったりとか、ロケーションも自分の理想としてたものに、どんどん近づいてきていますね。
キャンプ場や工務店さんとのコラボなど、他の事業者さんとも相乗効果が出せている気がします。
キャンプ場では釣りもできるし、川もある。サウナ飯として自分で釣った魚をご飯にしたりとか、なんていうんですかね、徐々にサービスに深みが出てきたなって感じています」。
元来、周りの人に気をつかいすぎてしまう性質で、それは自分としてはあまり好きではない部分だった。
組織で働いている時は、調整役を任されることが多く、バランスを取ることに気を配りすぎるあまり、疲れてしまうこともあった。
だが、テントサウナを提供している時はどうかというと、どうしたら極限まで人がリラックスしてくれるのか、心地よい空間を作れるのか、という部分に注力していると、これは自分の強みなんだと解放された気分になった。
思い描いたテントサウナが事業として実現できつつある。そんな山本さんは、これから何に取り組みたいのだろう。
「今、すごく課題に感じているのは、サウナや宿の提供が週末に限定されていることです。
もっと平日にもお客様に来てほしいと思っています。お話ししたように、会社員時代の経験として、人材の採用や育成にも携わってきました。そのバックボーンを活かして、アウトドア研修事業を提供していきたいと考えています。この地域には多彩な人材がいます。その方達と手を組んで様々なサービスを提供できればと考えています」。
次のフラッグシップを頭に描き、テントサウナを軸に、地域の現状をもっと多くの人に伝えていきたい、と語る。
奥三河にはまだまだ眠っている素晴らしい資源があることを知った山本さんは、それらを生きた資産に変えるため、地域の方と一緒に新たな団体の設立を準備中だ。
「地域の内情に詳しい地元の方、機動力をもって現場を運営する事業者、そして行政との連携が出来れば、できないことって無い気がします」。
テントサウナで汗をかき、川にザブンと入る。
次はあなたが体験する番だ。
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インタビュー・執筆:佐治 真紀 撮影:中島かおる