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あいち田舎暮らし応援団

あいちの山里暮らし人だより

~Michi~

Vol.34

「大人って楽しい!」

~対話を通して自分のモヤモヤに向き合った、移住5年目の篠崎さんが語るこれからの夢とは?~

 

普通がよかった

標高600-700mに位置し、周囲を1000m級の山に囲まれた設楽町津具地区。

5年前、結婚を機に夫婦で移住し、現在は北設楽郡の小学校の非常勤講師として働く篠崎郁恵さんに、移住のきっかけと教育に対する想いを伺った。

 

愛知県小牧市で生まれ育った篠崎さん。良い先生方に恵まれ学校が大好きだった。先生という仕事に憧れを抱き母の勧めもあり、教員を志した。

 

「大学までは、普通に、普通でいいと思ったし、皆と同じがよかった」

 

教員を目指す同級生らと一緒に、そのままに教員になる道もあった。

しかし、一度留学してみたいと考えていた篠崎さんは、このまま新卒で教員になると機会を失うのではと考え、

卒業後思い切って北米に念願の語学留学に飛び出した。

 

「英語が喋れるようになるとカッコいいなという安直な考えでした。もう一つは、教員になった時に、広い世界を知って語れるようになりたかったんです」

 

コツコツ頑張ることを得意としていた篠崎さんは、留学先で新たな価値観に触れた。

 

「それまでは、努力家だよねと褒められていました。でも、その国では頑張っていることは何も評価してもらえなかったんです」

頑張ることを努力するのではなく、何が好きで何ができるかを自分の言葉で語ることが出来ないと認めてもらえないという現実に打ちのめされた。

趣味も特技もない自分はダメなんだと思い、アイデンティティーが崩壊した気持ちを味わった。

帰国し教職に就いた。そこでも忘れられない出来事があった。

2年目で担任を受け持った小学一年生の遠足の時のこと。

 

「100人以上の児童を連れて公園に行きました。自由に遊んでいいよと言ったら、大半の児童たちは一目散に遊具に向かいました。

それに飽きると『先生、つまらないよ~』と言い出したんです。目の前には広い芝生が広がっているのに」

 

何も遊びを生み出せない児童たちを前にし、危機感を覚えた篠崎さん。

それにも増して残業の多い激務の毎日の中で、危機感とは別のモヤモヤした気持ちが自分の中で膨れ上がっているのを無視できなかった。

 

 

初めて出会った言葉「グローカル」

 

そんな時、友人に誘われてTED×名古屋(名古屋大学にて開催)に参加し、知らない言葉を耳にした。

「グローカル」

グローバルとローカルを組み合わせた造語だ。

篠崎さんは留学経験でグローバルな価値観に触れた。しかし、「ローカル」について何も知らないことに気がついた。

 

「なんか面白そう!」

 

篠崎さんは直感に従い、講演会の話者の主宰する「ミライの職業訓練校」に通うことにした。

 

※ミライの職業訓練校・・・豊田市の山里をフィールドに、名古屋大学大学院環境学研究科教授の高野雅夫氏を校長に迎え、

今の働き方の中で感じる“モヤモヤ”を深め、 自分がやりたいことを見つけ、仲間とともに切磋琢磨しながら、

カラダとココロが喜ぶ「あなたの天職」を探すための学校。

2015-2021年に開催された豊田市の事業

 

https://sb-ken.com/miraino/aeeaee/

 

半年間に8日間程度、対面でのワークを行ったりフィールドワークに出かけたりする中で、篠崎さんは充実した気持ちを味わっていた。

「正直、当時はあまり良さとかすごさは感じなかったです。でも皆で車座になり自分のモヤモヤを言語化して語り合う時間は印象的でした。

あんなにたくさんアウトプットしたのは人生で初めての経験でしたので。」

 

お互いの対話を通して、結果として自分自身と深く向き合うことで、今まで持っていた価値観とか常識が変化していくのを感じたそうだ。

 

「どんどん身軽になっていく感じ。それがすごく良かったです」

 

当時付き合っていた現在の夫も参加し、二人の方向性が見えてきた。

 

 

「お互いの出生地ではない場所で暮らしてみよう」

 

古民家のリフォーム塾に通っていたことが縁で、結婚を機に設楽町津具地区で暮らすことを決めた。

 

移住して

 

「1年目は、出産した時期でもありましたので、よくわからないまま過ぎました。

2年目になりようやく子どもと一緒に遊べる場所に出かけるようになりました。」

 

東栄町の森のようちえんに参加する中で、他の地域の親子と出会い、子どもにとっても自分にとっても話ができる友達が増えていった。

 

「田舎って、自然は豊かだけど、子どもを遊ばせるような公園はないね~、とママ友と話し合ってました。だったら自分たちで集まって楽しいことしよう、と一緒に川遊びしたり、パンを焼く会を催してみたり、仲間も増えめちゃくちゃ楽しくなってきたんです」

今、最高に楽しいですね、と篠崎さんは話す。

 

大学までは皆と同じがいいと思っていたが、今では「普通はない」と気がついた。

その代わりに頭に浮かんでくるのは、ミライの職業訓練校で学んだ、「稼ぎとつとめと暮らし」というキーワードだ。

今は、つとめと暮らしを大切にした毎日を過ごしている実感に満ちていると篠崎さんは言う。

 

想いがカタチになった

 

子育てを通して仲間が増えていく中で、何かしたい気持ちが芽生えてきた。

商工会の創業塾などに通い、専門家らと対話を重ねる中でぼんやりとやりたいことが見えてきた。

 

「奥三河には、どんどんステキな場所が生まれています。その中で、私は移動しながらできる楽しいことをやりたい、と思うようになりました。それを形にしたのがキッチンカーです」

 

2023年秋にアイデアが浮かび、クラウドファンディングに挑戦し多くの賛同を得て、2024年3月に珈琲&絵本のキッチンカーは誕生した。

「実は、夫も将来喫茶店を開きたいと思っていたので、その夢がこんなに早くに叶って驚いています。珈琲だけじゃなく絵本も、というコンセプトは、息子がポロリと口にした一言がヒントなんです。おもちゃも乗せてね、とリクエストされてます」

 

身軽に、地域を越えてつながりを作りたいという願いは、あっという間に形になった。

 

次のアイデア

 

そんな篠崎さんには、次に頭に浮かんでいるアイデアがあるという。

 

「この地域には、働きたいと考えているお母さんが少なからずいます。でも、子どもを預けてまで働きたいわけじゃない。だったら、子どもも一緒にいることができて、働ける場があればいいのでは?と考えたのです」

 

ママにとっても子どもにとっても嬉しい、学校以外の場所が欲しい。それを誰かに作ってもらうのではなく自分の手で生み出したい、と考えている。

教育を受けてきた経験、教育に携わっている経験を踏まえ、学校教育だけに留まらず、市民教育など色々な視点で考えるようになったと話す。

 

「教育に答えはないから、私はずっと探求していきたいと思っています。人生のテーマかもしれません」

 

キッチンカーを見かけたら、珈琲を飲みながら絵本をめくりながら、対話の時間をゆったり過ごしてみてほしい。

ひろばル

お問い合わせ先:yim.caws@gmail.com

篠崎郁恵

 

 

 

 

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インタビュー・執筆:佐治 真紀  撮影:木浦 幸加

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