春日井さんご夫婦の、エキサイティングな毎日
23年4月オープンの古民家“Room035”。オーナー夫妻の合言葉は「人生エキサイティングに!」
岡崎市南大須町、旧額田郡に23年4月にオープンしたエキサイティング古民家“Room035”。
運営するのは、オーナーの春日井雅子さんと謙次さんご夫妻だ。
趣ある古民家の風情を大切にしながらご夫婦のワクワクを詰め込んだこの場所に辿り着くまでに、「人生エキサイティングに!」の合言葉通り一言では語り尽くせないほどのドラマがあった。
出会った事から始まる、想像しなかった未来
ご夫婦のご出身は、謙次さんは岡崎市井田町で、雅子さんは幸田町。
二人は、職場で出会った。
謙次さんは現場を経験した後、人材育成サポート業務を、雅子さんは総務で経理や社会保険の手続き等を任され、フルタイムで働いていた。
謙次さんは、前妻を病気で亡くし、男手ひとつで子どもを育てていた。雅子さんは子ども3人つれて、離婚を経験していた。2012年に再婚。
「この人となら、この先の人生ももっと楽しくなりそう」、そんな予感がした。
ここから、二人の想像しない未来が次々と待っていた。
バンドが繋げた新たな家族
謙次さんは元々音楽が好きでずっとバンド活動をしていたのだが、社会人になると練習時間が調整しづらくなった。
お互い子連れ婚だったこともあり、二人の間の子も誕生し、家族が7人になった。
そこで、家族でバンド結成を思い付く。
子どもたちも謙次さんの勢いに押され、それぞれ楽器を分担をして練習し始める。
最初の基礎だけ習った子どもたちも、すぐにキーボード、ギター、ドラムをほぼ独学で習得していった。
数年後には、すでに各方面から出演オファー数が年間30本ほどになった。
様々なバントの曲を演奏したが、お客さんに一番受けが良いのはサザンオールスターズだ。
次第にサザンの曲を披露することが増えていった。
音楽を通して家族の絆が育っていったと、雅子さんも振り返る。
「家族になったばかりで、バンドをしたのは良かったと思う。バンドは1人欠けると駄目だし、恥もかきたくないからライブに向けて練習する。自然と家族全員が一緒にいる時間が出来ました」
色彩豊かなクラフトバンドが並ぶ棚に魅了され…
一方雅子さんは、再婚後退職。
ある時友人の誘いで触れたクラフトバンドに興味を持ち、本屋でふとクラフトバンドの本を手に取った。
色鮮やかで美しいクラフトバンドの並ぶ棚のディスプレイに一瞬で目を奪われ、その瞬間強く思った。
「この棚が家に欲しい!」
クラフトバンド専門店を開きたい、謙次さんに相談すると、あっさり背中を押してもらえた。
さらにクラフトバンドのメーカーに電話すると、販売も快諾だった。
こうして雅子さんの、愛知県唯一のクラフトバンド専門店がスタートした。
「販売することが目的で、実は作り方を知らなくて。そこから勉強しました(笑)」
その後クラフトバンドブームも追い風となり、体験教室には客足も少しずつ増えていった。
心が決まった娘の一言「私、ここに住みたい」
「空き家ツアーに参加してみない?」友人に誘われた雅子さんは、付いて行った。
参加できなかった謙次さんが、雅子さんから空き家の動画を見せてもらうとすぐに、ここだ!と強く惹かれるものを感じたと語る。
二人のやりたいことが叶いそうだと、夢が膨らんだのだ。
「自分がやりたかったのはステージ。飲食も音楽もこの広さなら十分できると思いました」
そして後日、改めてその空き家に見学へ。
娘も一緒に連れて行くと、しばらく家の周りを歩いた後「私ここに住みたい」と言った。
それが大きな決め手になり、夫婦の気持ちは一つになった。
とんとん拍子に話は進み、謙次さんは37年間勤めた会社を早期退職した。
移り住んだのは築120年の茅葺き屋根の平屋。60年前に改装された広い家は物が溢れ、片付けには苦労した。
「床などはプロに依頼して、その他の内装関係は全部自分でやりました」
解体中は大量の埃が落ちてきたり、その埃で蕁麻疹が出たりと大変だったが、防護服での作業で気付けば体重も25kg減り、心も体もスッキリしていた。
今考えると、大変だった片付けやリフォームも、地域に慣れていく大切な時間だったと振り返る。
最初にご縁のあった大工さんが地元の職人を集め、土地や地域のことも教えてくれたのだ。
引越し前、地元の神社のお祭りで自己紹介すると、歓迎の拍手が沸き起こった。
そして、2023年3月移住。
古民家を店舗へ、農機具小屋を住まいに、牛小屋を木工作業部屋に整備し、一家の新しい暮らしが始まった。
額田の古民家Room035、4つのエキサイティング
Room035は、クラフトバンド購入と作品作り体験が出来、ライブを聴きながら飲食を楽しめる店として2023年6月にオープン。
さらに雅子さんは友人にアドバイスを受け、起業を支援する事業にも参加した。
参加した事業先ではアドバイザーから民泊を勧められ、当初構想に無かった民泊も開始。
蓋を開けてみると、他市からも宿泊希望が相次ぎ、来訪者が増えた。
民泊では、先人が整えた自然豊かな裏庭と美しい襖が印象的な和室で寛げ、夕飯は外でBBQか春日井家と夕飯を共にする2コースから選ぶことが出来る。
さらに宿泊者には、謙次さんのライブに雅子さんのカラーセラピー付き。
もちろん朝食後はコーヒーで、ゆったりしたひとときが待っている。
買う、食べる、体験する、泊まるの4つが可能な、まさに“エキサイティング古民家”だ。
まだまだ試行錯誤中で、今年の1月からサザンの人気にあやかりたいと謙次さんの芸名を「額田佳祐」に。食事メニュー名もサザンの曲名にちなんで変更した。
路面が凍り客足が途絶えた時期に閃いた、斬新なアイディアだ。
「いつかご本人がお忍びで来てくれたらって妄想してるんです。そうなったら、感謝の気持ちを伝えたいです」
家族みんなの、新たな夢の一つだ。
梅の開花とともに、春の訪れを感じて
毎日が充実していると語る謙次さんに、これからの夢について伺った。
「もっと音楽やサザン好きが集まってライブを計画したい。去年音楽仲間が宿泊してくれた時は、夜通しゆっくり語り合えたのが楽しくて!」
さらに小屋作り、裏山の散歩道作り、ライダー向けのガレージ休憩所…とイメージはどんどん膨らんでいく。
また、雅子さんの昨年度はRoom035を設立し、地域課題へも向き合った一年だった。
「Room035から移住に繋げたい。過疎を食い止めて学校を存続させたい。女性の手仕事を通して、田舎の暮らしの楽しさを女性に伝えていきたい」
地域の人たちと話す中で、より明確で強い想いになったと教えてくれた。
今年はすでに、Room035でマルシェを企画する話も出ている。
その他お茶を淹れるワークショップや、山の素材を使った物作り、田んぼで農泊も企画中とのこと、雅子さんのやりたい事も、まだまだ尽きない。
二人の夢を応援するように、ほとんど咲かなくなっていた庭の桜の花が、移住の時に、突然咲いた。
青く穏やかな空の下、春日井夫婦の人生がこれからさらに花開くように賑やかになっていくーーーその足音が聞こえた気がした。
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インタビュー・執筆:白井美里 撮影:中島かおる