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あいちの山里暮らし人だより

~Michi~

Vol.28

200年続く茶農園の6代目、額田地域の名水とお茶の魅力を伝える試行錯誤の日々

この地を愛する人たちとともに、水の素晴らしさ、お茶の面白さを世の中に伝える「宮ザキ園」の6代目

 

清らかな水と、谷を吹く風。厳しいながらもお茶を生産するのに適した気候である岡崎市額田の宮崎地区。

ここで200年以上、茶農家・問屋として続いてきた「宮ザキ園」の6代目となる梅村篤志さん。

今、この地を愛する人たちとともに、水の素晴らしさ、お茶の面白さを世の中に伝えるべく、さまざまな試みを始めている。

 

お茶畑が遊び場だった

 

「やんちゃな子どもでしたよ。お茶の実を拾っては投げて、遊んでいました。うちはお茶の葉の生産者であり、製造・販売もしていたので、小さなころから自分の世界は、お茶とともにありましたね」

だからなのか、地元の中学校を卒業後に、安城農林高校へ進むことも、その後静岡県にある野菜茶葉技術研究所に就職することも、疑問に思うことはなかったという。

 

「特にこれがしたい!ということもなくて、きっと家業を継ぐと思っていました。進路もずっと、母からの勧めで決めてきました」

野菜茶葉研究所の茶業研究センターで働きだすと、品種改良や成分分析、お茶の加工などを学ぶことができ、ますます面白かった。やがて家業を継ぐことを視野に入れ、実家に戻る。10年以上働いたところで父親が他界し、2019年に6代目となった。

 

「一期一会」なお茶に魅せられる

 

研究センターでの学びもあってのことだろう。梅村さんはお茶の魅力を「一期一会なこと」と言う。お茶とひと口に言っても、さまざまな品種があり、使う葉や加工方法によっても味が違ってくる。現在宮ザキ園では12種類のお茶の葉を扱っており、加工方法を変えることで全16種のお茶の葉を販売している。農薬や化学肥料を使わず、有機肥料のみで栽培、自然の中で、自然にお茶の木が育つことを大切にしている。そうしてできる茶葉で淹れるお茶は、いつも「一期一会」の喜びにあふれているそうだ。

 

「自然の中で育ち、収穫するものだから、今年と昨年では味が違うのが当たり前。ワインみたいなものです。なのに工業化が進んで、ペットボトルのお茶も増えて、お茶はまるでいつも同じ味であることが当たり前のようになってきました。本当は違うんです。だからこそ僕は、一期一会で、それぞれに魅力があるお茶の個性を、世の中の人たちに伝えていきたいんですよね」。

そう言いながら、お茶を一杯入れてくれた。

「煎茶が一番面白いと、僕は思っています。煎茶はひとつの芯から、一葉、二葉、その部分だけを使うんです。そんなに量ができるわけじゃないので、その時出来たものを、その時に楽しんでほしい。やっぱり旬は美味しいですから」

 

少しずつお茶のファンを増やして…

 

妻の紘子さんも、結婚してから一緒に家業をしている。

「はじめは、畑なんて行くの?って言っていましたよ。それが今じゃ、喜んで畑に行っています。お茶も習ってね、教えられるまでになったんですよ」と、振り返りながら梅村さんが言う。紘子さんがお茶の魅力に気付いた大きなきっかけは、近所でお茶を教えてくれた女性だという。

「歳がもう90代になる先生で、それなのに言葉や所作が美しいんですよ。それでお茶の世界に引き込まれましたね」

 

また、お茶の生産を手伝ってくれるメンバーも、作業をするだけでなく一緒にお茶の世界を楽しんでいる。梅村さんの代になってから入った30代の従業員たちもいて「お茶が好き、農業が好き、という若い人が増えてきている」と、感じているそうだ。

「お茶を作って、自分たちで試飲してね、来年はこんなお茶を作ってみようかとか、お茶を使ってこんな新商品はどうかとか、そんな話をけっこうしています。お茶を飲みながらでほんわかに見えるけど、意外と熱い思いで語り合っていたりね。お茶の世界も、意外と古いようで新しいこともできるんですよ」

 

見てもらう、知ってもらう、感じてもらう

 

茶葉を売ることだけしていても、お茶の魅力はなかなか伝わらない。梅村さんはそう感じて、これまでと違うことにも積極的に取り組んでいる。例えば「見てもらう」こと。

「結婚式場のウエルカムドリンクとして、お点前を見ていただきながらお茶を出すことも、しています。やはりお茶は所作がきれいなので、それと一緒に良さを伝えられるのは良いなと」。

自園の茶畑には、テラスを設置した。

「お茶畑での作業の様子を見ながら、ゆっくりとお茶を楽しんでもらうのが良いなと思って、作りました。テイクアウトで買ってくださったお客さんも、ここでお茶を飲んでいただけます。先日はここで野点もやったんですよ。雨が降っても、シートをかければできますし、こうしたお茶体験を楽しみながら、お茶への興味を深めてもらえると嬉しいですよね」。

 

煎茶を入れる教室も行っている。茶器付きのセットと、茶器無しのものとあり、単発から何度も通うことができる。

「普段何となく淹れているお茶も、茶葉の量やお湯の温度、蒸らす時間などが適切にできるようになれば、ぐんと美味しくなります。ここでもお茶の所作をお伝えして、美味しさと美しさ、両方知っていただけたらなと思っています」

 

地域資源は「水」、価値はもっと高まるはず

 

梅村さんがお茶に携わる中で実感したのが、この地域の水の良さ。平成27年に環境省が実施した「名水百選選抜総選挙」でも、秘境部門で「鳥川ホタルの里湧水群」として全国1位になっている。「日本では当たり前だけど、蛇口をひねったら飲める水が出てくるというのは、海外から見たら素晴らしいことなんです。この山々があるからこそ湧き出る水は、超軟水でとても素晴らしいもの。そこにちゃんと価値をつけて売っていくことが、山に利益を還元していく道へとつながるはずです」

「エビアンのように、ここの水に“額田”ということが分かる名前が付けたい」と、梅村さんは言う。水の価値=地域の価値となれば、そこで生産される農作物なども高く売れるようになる。もちろん、そこで生産されるお茶の葉も。水がこの地域を引っ張る存在になる、梅村さんはそう考えている。

数年前から、「水」を活かした取り組みをひとつ始めた。それは「おかざきかき氷街道」。毎年春から秋にかけて、額田地区のさまざまな店舗で個性豊かなかき氷が楽しめる。梅村さんは、これをやろうと声を上げたうちの一人だ。おかげでシーズン中は、かき氷を食べにくるお客さんで大忙し。

「かき氷ばっかり売れちゃって、お茶を飲みに来た常連さんがお店に入れないことも。いいんだか悪いんだか」と言いながらも、目は嬉しそうだ。

「やっぱり、お茶ばっかりこだわってやっていても、買いに来る人は少ないんですよね。かき氷というきっかけを大事にしながら、お茶とのバランスを上手に取っていきたいですね」

 

古いものを生かしつつ、変わっていく

 

ここまで足を運んでくれた人たちを、どうお茶へとつなげるか。かき氷以外も、さまざまな試みを考えている梅村さん。

「ここをバーにしたいんですよね」、そんな話も出てきて、この地区はますます面白くなっていきそうだ。

「うちは江戸時代から200年続いているんですが、店のコンセプトとして『江戸に戻す』というのがあるんですよね。ペットボトルでお茶を飲むのが当たり前になってしまったような世の中で、お茶を飲むという行為を、もっとカッコいいものにしたいんです」

だからどれだけ便利になっても、なるべくプラスチック製品は使わないようにしたり、お茶の箱もコストがかかっても日本製のものにこだわったりしているそうだ。

「日本に江戸時代からあるような素材や、美しいお茶の世界を大切に、海外にまでも伝えていきたい。時代に合って変わっていかなきゃならないのはもちろんですが、古いものも生かして、それが最終的に文化と呼ばれるものになったらいいなと思います」

目の前で、いとおしそうに一杯のお茶を淹れる。丁寧に、丁寧に。その姿は確かに、日本の昔からの美しさであり、心につながっている部分だ。岡崎の山奥で、かけがえのない水を生かしながら、梅村さんはその価値を世界へと伝えていく。

 

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インタビュー:佐治真紀 執筆:田代涼子 撮影:中島かおる

Information

宮ザキ園

〒444-3601 愛知県岡崎市石原町字相野8

TEL:0564-83-2710

URL:https://miyazakien.com/

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