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あいち田舎暮らし応援団

あいちの山里暮らし人だより

~Michi~

Vol.27

近くの「やってみたい」を大切に。設楽町で雑貨店&キッチンカー

しなやかで優しく、自分らしい強さももち合わせている鈴木美帆さんの暮らす姿とは

 

 

 

設楽町の自宅で雑貨店を開きながら、キッチンカーでのイベント出店もしている鈴木美帆さん。扱う商品のテーマは「体にやさしいもの」だ。風にそよぐ柳のように、しなやかで優しく、でも自分らしい強さももち合わせている。今までもこれからも、少し先の「やってみたい」を大切に暮らす姿がそこにはあった。

 

 

のんびりやの美帆ちゃん

 

「2歳頃の写真にね、母の字で書いてあるんですよ。のんびりやの美帆ちゃんと、しっかりものの〇〇(妹さん)って」と笑う、鈴木美帆さん。

「もうこの頃からのんびりだったんですね、私。取材に来ていただいて申し訳ないけど、大きな夢とか、これが成し遂げたいとか、そんなものは無いんですよ」。

美帆さんは今、設楽町に家を構え、自宅で雑貨店をしながら、キッチンカーでイベント出展もしている。

「体にやさしいものを、と思って、自然食品や生活雑貨を販売しています。キッチンカーではお食事やドリンクを作って出しているけれど、あんまりこだわりすぎずに、と思っているんです」。

 

 

無農薬や無添加などへ思い入れが強くなるほど、それ以外のものを受け付けなくなる人も多い。そんな中、美帆さんはやわらかだ。

「前はこだわりを強くもちすぎていて疲れちゃうところもあったので。私はこうだ!というのが強すぎると、自分が苦しくなってしまう。力を抜いて、相手に合わせるくらいがちょうど良いかなと思っています」。

大人になった“のんびりやの美帆ちゃん”には、懐の深さを感じさせる、ゆったりとした雰囲気があった。

 

 

世界を旅して得た「どうにかなるさ」の価値観

 

25歳ごろから4~5年ほど、美帆さんは日本にいなかった。

 

「一度外国に行くと、すごくいろんな刺激を受けるよ」と友人に言われ、海外のいろんな国を訪ね歩いていたという。カナダに始まり、メキシコ、グアテマラ、インド…。それぞれを半年や1年かけて、ゆっくりと。そこで大きく価値観を揺さぶられたことが、今の美帆さんをつくっていると言えるかもしれない。

「初めて海外に行った頃は、引っ込み思案で自分の気持ちも言えない。あぁ、私って日本人だなぁって思いました。でも少しずつ、言える強さが自分の中で育っていきました」

メキシコなどの発展途上国に行った時のこと。

「お金がなくたって、明日が来ればどうにかなるさ、という人たちにたくさん出会いました。ただ好きなものを作ったり、ミュージシャンだったり、アーティストだったり。世界には、こういう生き方をしている人がいるんだ。日本で生まれ育った自分には、その価値観が衝撃でした」。

 

 

設楽町でお店をオープン

 

その後、結婚や子育てをしながら、シングルマザーとなってファッション関連のwebデザイナーをしたり、カフェを開いたりなどしてきた美帆さん。5年ほど前に設楽町の今の住まいと出会いがあり、新しい暮らしが始まった。

 

 

「この場所は、3軒隣でモザイクアートのお店をやっている、イタリア人のエレナに紹介してもらったんです。設楽町いいところだよ、ここの通りが特にいいよって」。住み始めた頃に、これからの仕事をどうするか考えた。

 

「45歳をすぎて、今さら就職するのもなって。じゃあ自分でキッチンカーでもやろうかと。それなら体に優しいものを売りたいなと思いました」

料理というか手作りがはもともと好き。小さいころからの母親の教えもあって、食品添加物のことは気になっていた。自身の便秘が、食生活を変えたら改善したという経験もあり、食べ物ってやっぱり大事だなと感じていたという。

 

「味噌や醤油も、自分の分は自分で作っています。大豆や塩のことなど、知れば知るほどに、添加物の無いものをその辺で買うのは難しいことなんだと分かってきて。だったら自分が、そういうお店をやるか、と」。

店名は「満ちる屋」にした。訪れた人がランチやお茶を楽しみながら、自然食品のことを知ったり、体に優しい食品や雑貨を購入できたり、心が満ちる場にしたいと思っている。

 

ほどよい距離感が保てる、田舎暮らし

 

5年経ってみて、エレナが通り沿いを勧めたことにも共感している。

 

「ここは旧飯田街道が通っていた場所なんですよね。だから、田舎なんだけどちょっと都会。周りの人とほどよい距離感があって、とても居心地がいいです。イベントなどがある時も、出店しないかと誘っていただけるし、自分がイベントに出ているときは、周りの人が買いに来てくださるし。田舎らしく、野菜をあげたりもらったりもね。人柄が良い人たちが多くて、ありがたいです」

 

千葉県の団地で生まれ育った美帆さんも、気づけば愛知県で20年以上。すっかり愛知の人になっていた。

 

子どもの頃も、就職するときも、これ!と思うものはなかったそうだ。「やりたいことが分からない…」と言う美帆さんに、ある人がこう言ったという。

「やりたいことが分からなくても、やってみたいことはいっぱいあるでしょ。それをどんどんこなしていけば、あなたが次にやりたいことにつながっていくよ」

やってみたいことに少しずつ挑戦すると、自然と次の道が見えてきた。ヒントも得られて、また一歩進めた。そんな日々があっての今だと言う。

「失敗もいろいろあったけど、そんなことは忘れちゃう。立ち止まっていると何も出会えないけど、動けば何かが変わる。それは実感しています」

 

大きな夢は無くても…

 

今年、美帆さんが新しくチャレンジしたのは、田んぼでの米作り。自分で田植えから収穫までやり切ったのは初めてだったそう。

 

「大変でしたが、最初に食べたご飯には感激しました。これまでのことも走馬灯のように思い出されて…。お米を作るってことがどんなに大変か、それが分かっただけでもとても良い経験でした」。

そして今興味があるのは、着物。来年は着物を着てキッチンカーをやりたいと思っているそうだ。

 

「海外ばっかり行っていたけど、和の美しさに気づいたのかもしれませんね。きれいに着られたら粋だなぁと」。

 

今年できたこと、来年やりたいこと、を話してくれながら笑う美帆さん。

 

「少し驚いているんです。この歳になって私、やりたいことがこんなにあるんだ。まだやれていないことがこんなにあるんだって」。

大きなものを描かなきゃと思い込み、やりたいことがないと嘆いていた美帆さんはもうどこにもいない。近い未来に見つけたやってみたいことをひとつずつ実現させながら、人生の線が描かれていく。

 

「大きな夢を持っていないといけないわけじゃない。〇〇じゃないといけない、という自分で作った枠から外れれば、楽に生きられると思いますよ」。

風に心地よさそうに揺れながらも、強風が来てもきっと倒れない。そこには、やわらかさと強さが同居していた。

 

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インタビュー:佐治真紀 執筆:田代涼子 撮影:中島かおる

Information

満ちる屋

〒441-2302 設楽町清崎字町浦19

TEL:090-6572-7470

URL:https://www.facebook.com/michiruya0308/

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