お問合わせ
あいち田舎暮らし応援団

あいちの山里暮らし人だより

~Michi~

Vol.21

夫婦でIターン、新婚生活。 地に足をつけて暮らせる喜び。

「私たち、ここに住めば、面白いんじゃない?」結婚とともに始まった、設楽町での暮らし

名古屋で生まれ育った篠﨑大地さんは、結婚とともに設楽町の津具地区へと移住した。一緒に田舎暮らしを学んだ女性との「ここで暮らしたいね」が結婚という形で実現し、2人ともIターンしてきたのだ。未経験だった林業の世界に入り、設楽森林組合の作業員として4年目になる。なぜ田舎に惹かれたのかの答えも見つけた様子の篠﨑さんに、お話を伺った。

 

結婚とともに始まった、設楽町での暮らし

生まれも育ちも名古屋。同じ愛知県内でも「田舎」と呼ばれる地域にはほぼ行ったことがなく、どんな暮らしか想像したこともなかったという篠﨑さん。田舎暮らしを意識し始めたきっかけは、当時付き合っていた彼女、のちに妻となる郁恵さんだった。

「彼女が興味を持って学んでいたことに、面白そうなのでついていったら、僕も楽しかったんですよね」。はじめは豊田市の田舎暮らし体験イベント。その後同じく豊田市の「ミライの職業訓練校」に、郁恵さんから1年遅れて通うことに。そして、現在は居を構える設楽町・津具地区で行われていた「リフォーム塾」に一緒に通ったのが決め手となった。

 

 

(ご本人提供)

 

リフォーム塾は1泊2日という形で何回か行われ、1日目の夕食は、参加者や、事業をサポートしてくれる地元の人たちと一緒に食べる。「一緒にご飯を食べながらいろんな話が聞けて、深い交流ができたんですよね。人柄が良い人ばかりだなと感じました」。2人は同じことを思い描くようになる。「私たち、ここに住めば、面白いんじゃない?」。こうして結婚とIターンが一緒にやってきた。2017年12月入籍、翌年の4月には設楽町へと引っ越し。大好きになった田舎、津具での暮らしが始まった。

共働きでいこう!

それまで篠﨑さんは、名古屋のコールセンターで働いていた。郁恵さんも小牧市内で小学校の教師をしていた。設楽町に引っ越しては、さすがに通勤も難しく、続けられない。2人とも、今の職場から離れる選択をする。「僕にとっては、良いタイミングでした。豊田市の『ミライの職業訓練校』に通っていたころも、今の働き方について、これでいいのかな、と感じていたので」。

教師の経験がある郁恵さんは、周りからの要望もあって、小さな英語塾を始めることにする。一方篠﨑さんは、未経験で何もないところから、仕事を探すことになった。設楽町に引っ越してくる前から探し始め、リフォーム塾の講師だった人からいくつか紹介してもらったが、ピンとこない。そんな中、まだ名古屋から田舎へと学びに来ていた時に、「木を伐採して、その木がいったいいくらになって市場に回るでしょう」という話を聞いたことを思い出した。その時は、ずいぶん安いんだなと思った覚えがあった。林業の仕組みを知るのも面白いかもしれない…。

ちょうど設楽森林組合で人手が欲しいという声も聞き、さっそく面接へ。トントン拍子で採用が決まった。現場も見せてもらい、平地から山奥まで、機械も使いながらいろんなところで木の伐採をしていることを知った。「その頃は何も知らないので、自分にできる仕事なのかは分かりませんでした。でも働いている人たちの雰囲気が良さそうだなと感じられたので、よし、頑張ってみようと思いました」

危なっかしい手つきで、未経験の林業へ

かくして、篠﨑さんの森林組合作業員としての日々が始まった。森林組合の作業員は10人程度。4、5人ずつの班単位で動く。「僕を指導してくれたのは、2歳下の班長さん。18歳の時から20年近く林業に携わってきて、年下だけど頼れる人です」

仕事を教わる前に、山道を皆について歩いていくことさえ、初めは辛かったと話す。「7年間のコールセンターでの仕事で、ぜい肉を貯えちゃいまして。これは痩せないとまずいぞと思ったんですが、ダイエットを考える暇もなく仕事をしているだけで引き締まってきて、半年で10kgぐらい、健康的に痩せました(笑)。これでやっと、山仕事のスタートラインに立てたという感じでした」

班長が2か月ほどマンツーマンで、木の伐採を教えてくれた。「身の回りの道具の使い方や、刃の目立て(刃を研いで切れやすくしておくこと)などを教えてもらえました」。だが、なかなか思うようにいかない。「何度も教えてもらって、頭では理解をするのに、実際になるとうまくいかないんですよね。事前に名古屋で講習を受けてきたりもしたんですが、最初は全然できませんでした。道具の使い方の奥の深さを、見せつけられる思いでしたね」

 

4年目になって

それでも篠﨑さんは、未経験からの林業に真摯に取り組み、4年目になった今も森林組合での仕事を続けている。自身の成長についてはどう感じているのだろうか。「4年目になって、チェーンソーを使って木を切ることについては、何とか人並みになってきたかなと思います。やっと、周りを見渡す余裕も出てきました」

初めの頃は、目の前の木を倒すことで精一杯だったと言う。それが今では、班長など周りの人が話し合う姿を見て、段取りをどう組もうとしているかなど、全体を見る目が持てるようになったそうだ。「この仕事の楽しさも、分かるようになってきました」と頼もしい笑顔だ。

 

 

篠﨑さんの目下の目標は、機械を扱えるようになること。森林組合では、グラップルやプロセッサーなど「高性能林業機械」を使った木の伐採も行っている。機械を扱えるようになれば、大きな仕事も手早くできるようになる。一方で、危険も増す。「この間、初めて1日ずっと集中して乗らせてもらったところです。周りの方に叱っていただきながら、少しずつ確実に扱えるよう、頑張っていきます」

自分のした仕事の結果が見えるのが嬉しい

移住して林業に携わり、篠﨑さんにとって仕事は、どんな存在に変わったのだろう。「これまで携わってきた仕事と比べて、今の仕事は目の前に結果が見える、これが自分にとっては大きいです。木を切れば、視界が開ける。この辺りも自分たちが去年やったんですが、通るたびに嬉しい気持ちになれます」

今思い返せば、コールセンターでの仕事は、役職が上がるにつれて少し怖い気持ちになっていたと、篠﨑さんは話す。「しっかりとした組織で、上に行くほど管理しなければならない人数も増える。直接話したりする機会が乏しいまま、仕事をさせたり、評価をしたり。そういうのが、自分には合わなかったのかなと、今は感じます。当時はモヤモヤしていただけで、なかなか理由が見えなかったのですが。今、僕は、自分の働く環境がとても気持ちいいんです。班という単位で少人数で、自分たちで相談して、自分たちで動く。動いた結果がはっきりと見える。本当に毎日、気持ちよく仕事ができています」

組織は大きくなるほど効率が求められ、コミュニケーションが足りないと感じても、それを補える環境にないことも多いだろう。それが篠﨑さんには辛かった。自分たちの手足を使って仕事をし、汗をかき、直接話をしながら決めていける今の場所のリアル感こそが、篠﨑さんの仕事の満足度を上げてくれている。

未経験だった林業も子育ても、仲間とともに

「林業を始めてから、山を見る目が変わりましたよ。この景色、気持ちがいいなと思うと、きっと人の手がちゃんと入って整備されているんだろうなと想像したり。木を1本切ることで、光がさーっと入ってくる嬉しさなんて、知らなかったですから。都会で暮らしているだけでは、視野が狭かったんだなと思います」

今は2歳の息子さんの子育てにも大忙し。やはり夫婦ともに実家から遠いならではの苦労はあるという。「同じ愛知県なのに、時間がかかりますからね。よほどの時じゃないと行き来できない。その分、こちらに来てできたママ友さんたちの助けがありがたいです」。リフォーム塾で一緒だった夫婦が、同じ年代の子を育てているほか、森林組合自体もちょうど今、子育て真っ最中の人が多いのだという。「これから移住してくる人には、子育ての先輩がいっぱいの状態になるので、いろいろと手伝ってあげられそう。僕たちがそうだったように、仕事も子育ても、前向きに手伝ってくれる仲間がいるので、そこは安心できると僕は思っています」

林業未経験であること、夫婦ともにこの地に縁がないこと。不安を数えたらきりがなかっただろうが、「ここで住んだら面白そう」という直感を信じて移住してきた。都会での仕事時代の違和感も拭い去り、篠﨑さんは今、名前の通り「大地」に根をおろして、設楽の日々を楽しんでいる。

 

+++++++++++++++++++++++++++++++

 

インタビュー:佐治真紀  執筆:田代涼子  撮影:中島かおる

 

 

Information

設楽森林組合

〒441-2317 愛知県北設楽郡設楽町小松横吹32

TEL:0536-62-0112

ページトップ

menu